2010年12月22日

「日の名残り」

20101222「日の名残り」.jpg

カズオ イシグロ (Kazuo Ishiguro) 著
土屋 政雄 訳
早川書房 出版

わたしを離さないで」が印象的だったので、同じ作家の作品をぜひ読んでみたいと手にとりました。わたしの好みからいうと、こちらの作品がさらに印象的でより楽しめました。

 この作品も「わたしを離さないで」同様、主人公の回想が中心になっています。年配の執事が、ひょんなことから車で旅に出るのですが、その道すがら想い出す昔のできごとに、旅の途中のできごとが織り交ぜられ、次第に執事の過去とそれを彼自身がどう受けとめていたかが明らかになっていきます。

 旅の行程は執事の人生と重なり、旅の終盤で目にする美しい日暮れの景色は執事の現在と重なります。そしてもうひとつ忘れてはならないのが、執事が旅に出たのは1956年のことで、英国における執事という職業そのものもやはり日暮れを迎えていたことです。主人公自身もかつては爵位ある紳士に仕えていたにも関わらず、いまや合理性やジョークを重んじるアメリカ人に仕える身で、もう昔のものさしは通用しません。

 この作家が描いたその暮れゆくときには、もちろん悲しさや切なさも見えますが、日暮れどきそのものだけでなく、その時を迎えるまでに過ごした時間すべてを肯定する気持ちが滲みでています。愚かな過ちがあったとしても無神経ともいえる看過があったとしても揺るがない肯定です。

 その肯定があるからこそ、前向きな気持ちが生まれるのだと、読んでいて感じました。いつか、わたしが自分の夕暮れを感じたときにまた読んでみたい本です。
posted by 作楽 at 00:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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