
乙一 著
新潮社 出版
グリム童話の「白雪姫」は映画にもなり、知らない人はいないといえる程、有名な話です。意地悪な継母に毒りんごを食べさせられたかわいそうな白雪姫は、亡くなったと思われましたが王子のキスで目覚め、その後王子と結婚し、幸せに暮らしました。めでたしめでたし。そういうお話です。
この話は時間とともにストーリーが変わった話だと聞いたことがあります。最初のストーリーは、毒りんごを食べさせたのは継母ではなく実の母で、その実の母は白雪姫の婚礼の席で、真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊らされたというものです。血のつながりのある実の母が娘を殺そうとする、そしてその報復に母は殺される、という今の話よりかなり残酷な内容です。
「Zoo 1」と「Zoo 2」は、単行本「Zoo」に収められた短編小説10編に、1編が加えられ、2冊の文庫本に分けられたものです。中でも、私にとっては、「カザリとヨーコ」と「SEVEN ROOMS」は衝撃的でした。特に、「カザリとヨーコ」は肉親同士の関係が描かれたもので、最初の実母に毒りんごを食べさせられた白雪姫の話を思い出しました。なぜ、衝撃的なのか?私の中の良心や自己犠牲の気持ち、敵対心や自己中心的な考え、などが大きく揺さぶられるからではないでしょうか。人に対して常に優しく接していたいと思いながら、何かの拍子にちらっと感じてしまう憎しみや嫉妬。そういう感情が大きく誇張された物語を読むとき、自分の中にある、認めたくない感情が思い起こされているように思います。
単純には割り切れない私たちの感情。それを違う角度から描いた「陽だまりの詩」は私がこのZooの中で最も好きな話です。何かを愛しいと思う、恨みを感じたり許したいと思う、羨ましいと思う、そういう溢れ出る流れが細やかに描かれています。お話はお話であって、それに反応する自分の心に意味があると思ってしまう本でした。
自分のものなのによくわからない、自分の心。その心を映してくれる本との出会いは大切にしたいと思います。