ジェレミー・マーサー (Jeremy Mercer) 著
市川 恵里 訳
河出書房新社 出版
この世知辛い世の中にこんな信念を貫いている人が本当にいるの? と疑ってしまうくらい現実離れしている内容でした。
フィクションのような語りではあるものの、内容そのものはノンフィクションであるこの本は、パリに実在する<シェイクスピア&カンパニー>という書店で数か月暮らした日々が綴られたものです。
その書店内のあちこちにはベッドが置かれ、困っている人、特に貧しい作家を無償でそこに泊めてあげるという風変わりな店なのです。経営者であるジョージ・ホイットマンは、「見知らぬ人に冷たくするな 変装した天使かもしれないから」という言葉を本気で言えるようなコミュニストで、ありとあらゆる経費を切り詰めて本屋を運営しながら、行き場のない人が生活を立てなおすまでのあいだ、食事やベッドを提供し続けた変わり者です。
しかし、変わり者であると同時に、人気者でもあるのです。経済的豊かさと心の豊かさには何の関係もないということを自ら立証し、いくつになっても恋を忘れず、共産主義が理想通りには機能しないと時代が証明したかのように見えるいまでも富をより公平に分配する術はあるという信念を貫いている姿が人々に感銘を与えるのです。その感銘を受けたひとりが、この本の著者です。
決してこんな書店で暮らしてみたいとは思いませんが、ちょっぴり羨ましく感じるいい話でした。

