2006年07月09日

「ミラコロ」

20060709「ミラコロ」.jpg

高山 文彦 著
ポプラ社 出版

 人の記憶というのは不思議です。特に時間の経った記憶は所々抜け落ちていたり、逆にある部分だけ鮮明過ぎて、数十年経過したとは思えないことがあります。

 今から30年以上も前、ほんの小さい子供だったころ、私はあるものを一生懸命捜した記憶があります。周囲の人間にとっては大したことはないものでも、私にとっては何にも代えられない大切なもの。必死に捜したので、どういう場所を捜したのか、その細かな場所のイメージや自分のあせり具合などを細かく覚えています。でも、驚くことに、そのものが見つかったのか、あるいは存在しなかったのか、どうしても思い出せないのです。その消えた記憶のかけらを見つけることがこの先あるのかどうかさえ、わかりません。

 この「ミラコロ」では、忘れたことさえ覚えていない昔の記憶がひとつひとつ埋められていきます。

 主人公の甲斐敬介は、高校時代の女友達である百合子から送られてきた映画の切符を手に、20年近く帰っていなかった故郷に帰ります。もう2度と帰ることもないと思っていた故郷、いや、帰らないと強く決めていた故郷になぜ帰ることにしたのか、自分自身戸惑いながら、列車に乗り込みます。

 映画の切符は、敬介が高校生の頃、百合子とよく行った映画館が閉鎖されることになり、その最後の上映を一緒に見たいという誘いとともに送られてきました。そして、敬介が乗り込んだ列車の中には、同じようにその映画館の最後を見ようと出掛ける人々で埋まっています。普段は人もろくに乗っていないような列車に。その列車の中で、敬介は自分の記憶をジグソーパズルのようにつなぎ合わせていきます。

 物語は、淡々と進み、私にとっては、暗く長い退屈なトンネルのように続くのですが、それが最後には、広い青空と眩しい緑の山々が連なる広い景色が広がるような終わりがあり、「最後まで読んでよかった。」と思えます。
posted by 作楽 at 07:51| Comment(0) | TrackBack(1) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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「ミラコロ」〜時間よ止まれ
Excerpt: 高山文彦さんの小説「ミラコロ」。高山さんからサイン本を贈呈していただきました。寄せられたメッセージには「時間よ止まれ」。 その意味は、読後にじわじわと伝わってきました。
Weblog: 50kmの旅路〜高千穂線ブログ〜
Tracked: 2006-07-13 00:57