
ナシーム・ニコラス・タレブ (Nassim Nicholas Taleb) 著
望月 衛 訳
ダイヤモンド社 出版
サブプライムローン問題が顕在化する前(2007年)に出版され、2009年に日本語版ができた本です。サブプライムローンの金融危機を予測したかの内容に、かつて話題が集まったのですが、今回また福島の原発事故が起こったことにより、注目されているので、読んでみました。
リスクの危険度合を考えるとき、発生する確率を想定しなければならないのですが、そのとき、なんでもかんでもベル型カーブを当てはめてしまうのは間違いだと、著者は訴えています。
ベル型カーブ(正規分布)のかたちをとる事象というのは、意外に少ないだけでなく、本当に正規分布の当てはめに頼っていいかは、断定できないため、人命にかかわるとか、金融システムが破綻するとか、甚大な被害が予想される事象に、安易に当てはめるのはよくないという意見です。
それだけだと、「そうなんだよね」で終わってしまうのですが、著者は、人が正規分布に頼ってしまうのは、人間の性質として理屈や法則が好きだからというところに原因があるとして、いくつか実験を紹介しています。どれもわたしの知らない実験だったので、おもしろく読めました。
ただ、著者が批判するValue at Riskの算出などをしている現実社会というのは、著者が想像しているものとは少し違うかもしれない、とも思いました。たぶん世の社長の大部分は、自分の在任中に大きな問題は起こらないという確信(その確信自体が人間の性質なのだとは思いますが)のもと、周囲を納得させる根拠となる数字をうまく利用しているだけなのではないでしょうか。
もし本当にベル型カーブが広く有効だと信じる方であれば、読んで得るものがある本だと思います。