
高橋 克彦 著
講談社 出版
蝦夷(えみし:現在の東北地方)で発掘される金を自由にするため朝廷が仕組んだ侵略をことごとく跳ね返して独立を守った者たちが描かれています。
物語は、780年朝廷の懐深くに入り込んでいた蝦夷のひとり伊治公鮮麻呂(これはるのきみあざまろ)が、按察使(あぜち)という要職にある紀広純(きのひろずみ)と道嶋大楯(みちしまのおおたて)を殺して、闘いの火蓋を切ったところから始まります。報復にやってくる朝廷軍を迎え討つために蝦夷は団結するのですが、その族長となったのが主人公の阿弖流為(アテルイ)です。それ以降、彼の没年である802年までのできごとが、この上下巻に収められています。
下巻の途中までは、蝦夷にとってすべてが順風満帆にいき過ぎて単調なうえ、善人(蝦夷)と悪人(朝廷)が極端に図式化されて過ぎていて気持ちが入り込めませんでした。それが、阿弖流為に葛藤が生まれたあたりから俄然主人公に共感できるようになり、おもしろみが増しました。
もともと流血沙汰を読むのは苦手なのですが、蝦夷と朝廷では兵の数ひとつとっても雲泥の差があり、高度な策、つまり心理戦を中心に戦が展開するので、その点もおもしろかったと思います。
そして何より、この時期に、東北という土地柄が描かれている本を読めたことは、わたしにとって良かったと思います。