三浦 しをん 著
光文社 出版
生涯現役で頑張ったとしても、そう何度も経験できないという、気のながい仕事が取りあげられています。タイトルの「舟を編む」の編むは辞書の編纂を意味します。そして舟は、言葉という大海原を渡るための舟です。
自分が生まれる前から存在してきた辞書は、わたしにとって空気みたいな存在で、この本を読んで初めて気づけたことが多かったと思います。
辞書編集者というのは、地味を絵に描いたような仕事ですが、そこは著者独特の軽妙な語り口で、いい塩梅に人物像が仕上がっていました。
主人公は、馬締(まじめ)という名前で、たしかに真面目ではあるのですが周囲から浮きまくるというユニークな個性の持ち主で、彼の存在自体が笑いをひきおこしてしまいます。その一方で、辞書編集者という枠から人生全体に仕事がはみだしているかのような、彼の言葉や辞書に対する熱い思い入れは、周囲を変えていってしまいます。暑苦しくならない程度の熱意と、ユーモラスな行動が、辞書編纂という地味な舞台裏で映えていました。
この本を読むまで何の興味もなかったくせに、辞書が、激しい変化を迎えるであろう出版業界でどうなっていくのか気になるようになりました。

