
村上 春樹 著
新潮社 出版
「世界の終り」という世界と「ハードボイルド・ワンダーランド」の世界が、交互に語られていきます。どちらも簡単には説明できない不思議な世界で、そのふたつの世界が将来どう交わっていくのか、まったく見えないまま物語は進んでいくのですが、最後の最後になって、物語のなかではなく自分のなかに結末を見つけた気分で読み終えました。
「世界の終り」という世界は、それだけで綺麗に完結していて、誰が不満をもつでもなく争いがあるわけでもなく完全であるはずなのに不完全な印象を受ける世界なのですが、その理由をうまく言葉にできませんでした。そして最後に登場人物のひとりが言うのです。良いものもあれば悪いものもある自分たちが生まれた世界は、立派な世界ではなくても、生きるべき世界なのだと。
物語の主人公は、その考えに同調しないのですが、わたしには響きました。生きるということは、安定した完全のなかでは意味をなさないと、たぶんわたしは思っていたのだと思います。
もうひとつ。「ハードボイルド・ワンダーランド」で主人公は、最後の時間を過ごすとき、不要になったものを少しずつ処分して身軽になろうとすると同時に、またふたりで会う機会が訪れるかのように人と別れるのです。それはわたしの眼には随分と矛盾する行動として映りました。だれかを待つとなれば、ただひたすら訪れる瞬間を考えて待つわたしは、たぶんだれも待たせたくはないのだと思います。
うまく説明できませんが、おもしろい物語でした。
コメントいただき、ありがとうございます。わたしの周囲の村上春樹ファンのなかでも、この作品の人気はずば抜けています。
それだけ魅力のある作品なんでしょうね。