
S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
直良 和美 訳
東京創元社 出版
「チャイナタウン」の続編ですが、視点がリディアからその相棒であるビル・スミスのへと移っています。細やかな女性の視点とは違って、感情を表に出すことなく淡々と調査を進めていく印象が強くなっています。
その一方で、回想シーンなどビルの意外な一面を見せる場面も多く、「チャイナタウン」とこの「ピアノ・ソナタ」が揃ってはじめて、このシリーズの幕開けだと言えるのかもしれません。
今回の依頼内容は、ビルの恩人であるボビーの甥を殺した犯人を捜し出すというものです。甥は、ボビーが経営する警備会社で警備員として仕事をしていた最中に殺されたため、ボビーの心中は察するにあまりあるものがあり、ビルは躊躇なく仕事を引き受けます。そして自らは警備員として現場に潜入し、リディアには外部での調査を依頼します。
ボビーが請け負っている警備の対象は、治安が悪化しつつある地域にある慈善団体で、シニア世代の人たちが暮らしています。そして前作同様、チャイナタウン独特の事情も描かれています。子供たちが育つ環境としては厳しい場所かもしれませんが、さりげないビルの気遣いなどを読んでいると、世の中、画一的に判断できる事柄も、人も、場所も、存在しないという気持ちになるので、暗い面と明るい面のバランスよく描かれた作品だと思います。