
F. W. クロフツ (F. W. Crofts) 著
霧島 義明 訳
東京創元社 出版
1920年に発表されて1世紀近く経ったいま新訳が出されたというだけでも、よほどの人気があった作品だろうと期待が高まりました。
読み始めてすぐ、期待を裏切らないスピード感ある展開に引き込まれ、一気に読んでしまいました。
中盤までは、ロンドンとパリの警察が探偵役をつとめ、そのあとは弁護士に雇われた私立探偵が探偵役をつとめる構成です。優秀そうな刑事たちがとりたてて先入観ももたず地道に捜査した結果は、証拠も盤石で、動機もそれらしく、訴追するのは当然という内容なのですが、それがミステリーとしては胡散臭く、私立探偵がどう刑事たちの捜査をひっくり返すのか気になって仕方がない状況で読み進めたので、トリック崩しを堪能できました。
そしてそのトリックの中核を担うのがタイトルの樽です。わたしは巻末の解説を読むまで気づかなかったのですが、その樽に関する描写については、作品の傷(<伝説のミス>と呼ばれているそうです)とも関係しています。これから読まれる方には、樽に関わるミスが何なのか、ぜひ意識しつつ楽しんでもらいたいです。