
ヴィクトル・アルナル・インゴウルフソン (Viktor Arnar Ingólfsson) 著
北川 和代 訳
東京創元社 出版
不審死を遂げた男性の遺体が発見されるところから物語が始まるので、フーダニットとして読み進め、手口や動機を想像してしまいがちですが、そうすると肩透かしを喰らう羽目になってしまいます。
この物語の舞台となっているのは1960年のアイスランド、しかも首都などの大きな街ではなく、僅か数十人が住むフラテイ島です。海に囲まれ、資源が少なく、若者が出ていく島には、アイスランドで代々受け継がれてきた中世の詩や物語をまとめた『フラテイの書』の復刻版があります。そしてその書に記されているサーガをもとにして1871年に作られたフラテイの暗号と呼ばれるなぞなぞと一緒に保管されています。
自然の恵みを受けることに感謝し、自然とともに伝承物語を受け継ぐ人々の生活がこの本には描かれています。そしておそらく著者がもっとも伝えたかったこともそこにあるようです。本格ミステリを読みたい方向けではありませんが、アイスランドの自然や歴史に触れたい方にはお勧めのミステリです。