
キャロル・ネルソン・ダグラス (Carole Nelson Douglas) 著
日暮 雅通 訳
東京創元社 出版
「おやすみなさい、ホームズさん」に続くアイリーン・アドラー探偵シリーズです。しかし、今作では、アイリーン・アドラーは、自分たち夫婦が事故死したという誤った報道がなされたのをいいことに、夫とともに別人として暮らしています。新しく得た名前は、アイリーン・アドラー・ノートン。女優として歌手として表舞台に立てなくなったアイリーンは、夫のゴドフリーを従えて、謎解きに奔走します。ワトソン役のペネロピー・ハクスリーも、もちろん同行します。
今回も前回同様、論理を組み立てるより、体当たりを基本方針とするアイリーンは、怪しいと睨んだ人物の胸に犯人にあると目される入れ墨があるかを確かめようとします。しかし、時代は19世紀。女性が結婚相手でもない男性の肌を見るなんてことがそう簡単にできるわけがありません。あの手この手を駆使するアイリーンは、微笑ましいような頼もしいような……。
前作と同じく、やはりこのシリーズは、この時代背景、つまり女性が置かれた窮屈な環境がうまく作用していると感じました。そして今作は、ホームズが果たす役割がぐんと小さくなり、アイリーンの物語として立ち上がった印象を受けました。(巻末の解説によると、このあとすでに6作が出版されているようです。)
ミステリとしてはそう印象に残るシリーズではありませんが、経済的に恵まれながらも社会的には自由の乏しい19世紀に生きる女性のちょっとしたアドベンチャーとして楽しめる作品だと思います。