2014年07月12日

「冬そして夜」

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S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
長良 和美 訳
東京創元社 出版

 シリーズ第8作目にして初めて、ビルがリディアに対して、両親とではなく叔父と暮らすことになった辛い過去を話す場面が登場します。家族との摩擦や家庭の温もりとは切っても切れない関係にあるリディアと違って、ビルには家族の存在が感じられる場面があまり登場しません。

 そのビルが今作では妹一家と再会します。甥であるゲイリーがビルの住むニューヨークの警察に保護され、ビルが身元保証人として呼ばれたためです。ゲイリーは、何かトラブルを抱えているようですが、かたく口を閉ざしています。そしてそれは、ほかの人たちが抱える問題へと思わぬ展開で波及していきます。

 ゲイリーの隠しごとが何なのかも気になりますが、その隠しごとが一連の事件とどう関係してくるのかも気になって、一気に読んでしまいました。

 いろんな要素が組み合わされて、このシリーズは成り立っています。探偵であるふたりが関わる事件を中心に、ビルとリディアの関係、ビルの家族の不在、逆にリディアの密な家族との関係が描かれるほか、リディア視点のときは移民社会の問題、ビル視点のときはアメリカ社会の問題が何かしら取りあげられています。

「春を待つ谷間で」は、ニューヨークやサンフランシスコのような大都会ではない小さな町が子供たちに与えられる教育という問題が取りあげられていましたが、今作では、裕福な家庭が多い郊外の町がフットボール選手を英雄のように扱うさまが取りあげられていて、少しばかりアメリカに滞在したくらいでは見ることのできない価値観が感じられて、おもしろく読めました。

 このシリーズで描かれる社会問題はどれも身近なことなので、次も読みたいという気になります。
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