
レイモンド・カーヴァー (Raymond Carver) 著
村上 春樹 訳
中央公論社
出版する本がみなベストセラーになっている作家、村上春樹氏が絶賛するカーヴァーなる作家は、どのような作家なのか知りたくて読んでみました。
読み終わったあと、うーんと唸ってしまった作品が多かった気がします。
たとえばジグソーパズルのように、作品を細かくわけてそのピースひとつひとつを見ている範囲においては感情移入もできるし、情景も鮮やかに思い浮かぶのに、仕上がりの全体像を見ようとした途端、なんだか訳がわからない気がしてくる作品があったりします。また、わたしの人生においては死ぬまで起こりえないような不思議なことが作中で起こっても、その経緯や理由などは謎のままで、読み終わったあとに、あれやこれや考えこんでしまう作品があったりもします。
正直なところ、カーヴァーが絶賛される理由は攫めませんでしたが、それぞれの作品の世界がどれも独創的で、他所ではなかなか味わうことのできないものであることは確かだと思います。
収められているのは以下です。
−でぶ
−サマー・スティールヘッド(夏にじます)
−あなたお医者さま?
−収集
−足もとに流れる深い川
−ダンスしないか?
−大聖堂(カセドラル)
−ぼくが電話をかけている場所
−ささやかだけれど、役にたつこと
−使い走り
−父の肖像<エッセイ>
−レモネード<詩>
−おしまいの断片<詩>
このなかの「ささやかだけれど、役にたつこと」は、バースデイ・ストーリーズに短いバージョンが収められています。わたしは、こちらの長いバージョンが好きです。
レイモンド・カーヴァーは、作品から削ぎ落とすことで何かを得ようと、あるいは何かを見ようとしていたかのように、作品を短くすることに熱意を傾けていたようです。ウィリアム・A・スタルによるこの本の序文には "短いほどいい(Less is more)という審美基準に従って(中略)「骨までというのに留まらず、骨髄まで」カットしたのである" と書かれてあります。
そんな骨抜きにしてどうするのかという、わたしの個人的心配は別としても、やはりカーヴァーとしても思うところがあって、そののち短くした作品をまた引き伸ばしています。
わたしは、カーヴァーが作品を削りに削ってから引き伸ばしたところに、親近感を感じました。