
クォン・ヨソン 著
橋本 智保 訳
書肆侃侃房 出版
帯に『切ないまでの愛と絶望を綴る七つの短編』とあります。帯イコール誇大広告のように思っていましたが、この帯は的を射ていると思います。
『絶望』というのは、やや誇張かもしれませんが、視線が過去に向いている作品がほとんどです。しかも、その過去が現在に影をおとす様子から、読んでいて気が滅入ることもありますが、作品としてはよくできていると思います。
なかでも上手いと思ったのは、些細な疑問を徐々に明らかにしていくプロセスと、登場人物の心情を語りすぎない、解釈の余地を残した描写です。さまざまな事柄がうまく結びついていくいっぽうで、疑問のすべてを解かず想像に委ねる部分が残されています。
たとえば「カメラ」は、最初の一文で唐突に、ある道がアスファルトではなく石畳なのはなぜかという疑問から始まり、次にカメラに話題が移ります。なぜカメラより先に石畳が登場したのかわかったときには、いろんな『なぜ』が解き明かされ、登場人物に寄り添う心情になっていました。
そのほか「三人旅行」、「おば」、「一足のうわばき」、「層」も、変えられない過去というか、こだわってしまい忘れられない過去が描かれていて、それぞれが何かしら読んでいるわたしの過去に絡んでくるようでした。
帯にある『切ないまでの愛』に最もぴったりとくる「春の宵」は、切なすぎるあまり、「逆光」は幻想的な雰囲気のせいで、自分に重なる部分は感じられませんでしたが、どちらも共感できる作品でした。