
竹内 久美子 著
文藝春秋 出版
著者は、動物行動学研究家だそうです。タイトルの「遺伝子が解く!」は、ややオーバーですが、論文などの文献にあたって書かれてあり、説得力のあるエッセイになっています。
おもしろいと思ったトピックは、ふたつ。ひとつは、樹木の紅葉がテーマです。秋になると紅葉を見に行こうとわたしたちが大騒ぎするのとは全然関係のない理由で紅葉は起こっているのではないかという有力な仮説が、今世紀になって登場したそうです。
紅葉した木は害虫に向かって、「オレに取り付くのはやめときな。オレがこんなにも黄色い (赤い) のは、おまえたちが取り付こうとしたって無理だっていう意味なんだよ。ウソじゃないぜ。こんなにも黄色く (赤く) なるためには、ごまかしじゃなくて、本当に元気で、抵抗力が強くなきゃだめなんだからね」と言っているという仮説です。
この仮説は、今世紀になって登場したもので、盤石な共通認識とはいえないようですが、害虫がつきやすい樹木ほど紅葉するという相関関係はフィールドワークで見つかっているそうです。
もうひとつは、自分たちの耳というか、脳の働きについて驚いたことです。
一般的に左脳が言語を司っているといわれています (左利きだと右脳が言語脳のケースもあるそうです)。しかし、言語が何かという判定は、環境に依存します。生まれたときから日本語に慣れ親しんできた (日本) 人の場合、母音 (あいうえお) も含めすべての音声言語は、左脳から入るいっぽう、欧米人 (欧米人の定義は書かれてありませんが、英米語を母語とする人を想定されている模様) の場合、母音は右脳に優先的に入り、雑音と認識されるそうです。
日本語は、尾や絵など母音だけで意味のあることばになりますが、英米語では母音だけのことばは希少であることが影響していると考えられています。これにより、脳が母音と同じようにみなすコオロギの声を聞きながら原稿を書いたりできる日本人と、コオロギの声に邪魔されると原稿書きに集中できない欧米人の違いが生まれるそうです。
論文を根拠にこういったことを披露されると、単純にすごいなあと思ってしまいます。