
ジェイムズ・ジラード (James Preston Girard) 著
柴田 京子 訳
講談社 出版
友人の本棚で見つけて貰いうけた古い本ですが、わたしにとっては当たりでした。連続殺人犯を追う捜査をメインに、犯人を追う側の家庭の崩壊と再生がサブストーリーになっている一般的な展開なのですが、少しひねりがきいています。
まず、タイトルにある遅番記者は、夜間対応の遊軍のような記者です。窓際とはいわないまでも華々しい仕事をしていないその記者が連続殺人犯担当の捜査員に張りついて取材することになります。警察官と同じように事件を追うものの、事件を見る角度がやや異なり、それがこの作品の個性のひとつになっています。
さらに、冒頭では連続殺人犯を追うことがメインストーリーのように見えていましたが、気がつくとサブストーリーと思っていた犯人を追う側の家庭の崩壊と再生がメインと入れ替わったように見える点も珍しいように思います。
連続殺人犯の被害にあった女性たちの大部分は、事件に巻きこまれるようなタイプではないことから、普通の人が過ごす何気ない日常が一瞬にして奪われてしまう危険性が世の中に潜んでいるという事実が、事件を追う者に突きつけられます。それによって、日常は、いつ失われてもおかしくないものという感覚が遅番記者に伝わり、物語の展開に影響を与えると同時に物語に占める割合も大きくなっていきます。
最後に、連続殺人犯の逮捕においても、意外な結末が用意されていて、犯人を追う側の意外な落着とともに、終わりまで目が離せない展開になっています。
古典的な構成だと思って読み始めましたが、その枠におさまらない部分も楽しんで読めました。