
作家だけに幅広い分野に及ぶエッセイです。いろんな笑いをテーマにしていますが、遅筆で有名な作家としての自嘲が、鮮やかでした。
アメリカでは『後援者募集 (バッカーズ・オーディション)』というものがあるそうです。演劇などの後援者を募集するもので、製作者が中心となって劇作家、作曲家、振付師、出演者などがいかに魅力的な企画かを後援 (投資) 候補者に説明し、資金を調達するのです。演劇があたれば、後援者には分配金が支払われます。似た仕組みで、エンターテインメントを証券化し、資金調達する場合もあります。
著者は、自らの劇団でも証券化手法で資金を調達できないかと考えますが、相談した金融アナリストからは相手にされず、こう説明されます。
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「証券化の際の契約書を取り寄せて調べてみたところ、どんな契約書にも次の一条が書かれているんですね。それはこうです。映画、演劇の私募債については、発行の時点で必ず脚本の完成稿ができていることを必須の条件とする」
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見事な自虐ネタです。
もうひとつ、日本人としての自嘲も、印象に残りました。
ボローニャという街の憲章は、『わたしたちは、この場所で、同一の法のもとに豊かな共同生活を送ることを互いに求め合う』というもので、この街では、ホームレスになっても生活を立て直すための仕組みがあるそうです。
互いに人を人らしく再生させようと努力するこのような街に対し、著者は日本を互いに人からカネを巻き上げようと躍起になっている街と評しています。
『貧困ビジネス』などといういうことばを生んだわたしたちを 2005 年初出のエッセイですでに予見していたようです。