
酒井 順子 著
新潮社 出版
源氏物語を紐解き、光源氏と関係をもったシスターズを著者の解釈を加味して比べるという企画です。物語の流れや背景を説明したあと、女性たちになりかわって著者が独白するのですが、その独白は、それぞれの個性がうまく描き分けられ、かつ現代女性にとってもわかりやすいよう語られています。
観察眼に優れた著者の的を射た分析と好みの表明は読んでいると楽しくなります。
戦後、男性に比べて女性の生き方は多様化してきました。専業主婦に限られず、共働きという選択肢も生まれ、働くにしても補助的な仕事はもちろん、高度に専門的な仕事に就くことも不可能ではなくなりました。
それぞれの女性がそれぞれの生き方を模索する時代、さまざまな価値観で光源氏と交わった女性たちを見てみることは、時間という距離がある安心な場所から眺められるだけに意外と楽しいものです。
わたしがもっとも共感を感じられなかった女性は六条御息所です。夕顔、葵上、紫上と 3 人のシスターズを怨み殺してしまったほどの気持ちを哀れに思うもののそこまでの気持ちは理解できませんでした。著者は『どれほど源氏から疎まれても憎まれても、死んだ後まで、一個の人間として生きる道を選んだ』と評しています。一個の人間として生きることは確かに大切ですが、他人の命を巻きことはまた別の問題だと思いました。
いっぽう、恋しいと思っている相手が閨をともにするため足繁く通ってくることがなくなっても『ひがむことなくおっとりと対応し、言いつかった仕事を粛々とこなしていた』花散里には、共感できました。著者も、そんな花散里は結局のところ幸福に恵まれたと書いています。
ほかにも源氏の父の妻にあたる藤壺宮、その藤壺宮の面影のある紫上、床上手だったのではないかといわれる夕顔、源氏が幅広い世代の女性に手を出していた証のような源典侍(げんのないしのすけ)など様々なシスターズが登場し、様々な立場の女性の気持ち窺い知ることができ、源氏物語が長年にわたって読み継がれてきた理由のようなものをあらためて知ることができた気がします。