2020年06月02日

「華麗なる一族」

20200602「華麗なる一族(上)」.png20200602「華麗なる一族(中)」.png20200602「華麗なる一族(下)」.png

山崎 豊子 著
新潮社 出版

 昔、木村拓哉の主演でドラマ化されたときに読もうと思ってから積読状態でしたが、やっと読みました。さすが山崎豊子作品の貫禄がありました。

 タイトルの「華麗なる一族」とは、阪神銀行を中心に阪神特殊鋼や万俵不動産などの企業から成る万俵コンツェルンを作りあげた万俵家のことです。当主の万俵大介は、万俵コンツェルンのトップであるだけでなく、阪神銀行の頭取も務め、自らの欲望のためには息子さえ利用する灰汁の強い人物として描かれています。

 その万俵家の内情をサブストーリーとすれば、メインとなるのは、阪神銀行頭取の野望とそれを取り巻く金融業界の内情です。その両ストーリーの橋渡しをするのが万俵家の閨閥作りです。男女合わせて 5 人の子を持つ大介は、官僚・実業家・政治家へと伸ばした閨閥を最大限利用し、阪神銀行の生き残りを果たそうとします。

 舞台は、70 年代頃の日本なのですが、半世紀近い年月が過ぎてから読んでも思ったほど古臭さを感じません。政府の許認可が大きな役割を果たす金融業界や大介のようなぎらつく欲望を持った人物は、半世紀経ってもそう変わっていないことが原因かもしれません。加えて、リアリティ溢れる業界の裏事情に惹きこまれたこともあります。あとがきによると、取材と金融の基礎勉強に半年余り費やされたそうで、その成果が余すところなくあらわれていたと思います。

 阪神銀行を大きくするために自らの息子を駒のように使い捨てた大介は悪者として描かれていますが、そこまでした彼の天下もせいぜい 3 年と匂わせる結末は、魑魅魍魎が巣くう政治や官僚の世界を描き切ったように見えました。

 これだけ時代が変化していても本質的に何も変わらない日本の政治・官僚社会の空恐ろしさが印象に残った小説でした。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]