
岩佐 義樹 著
ポプラ社 出版
これまでわたし自身が明確に疑問を提示できないものの、どうすればいいのか迷ってきた問題が取りあげられていて、読み甲斐がありました。
ひとつは『いただく』の多用です。以下の@とAは、どちらが正しいでしょうか。
@ 本日ご来店くださったかたにはもれなく記念品をさしあげます。
A 本日ご来店いただいたかたにはもれなく記念品をさしあげます。
答えは、@です。『〜くださる』は尊敬語で、『〜いただく』は謙譲語です。この文章は、店側から客へのメッセージで、文中の『かた』は、客と考えられます。客が主体になっているのに謙譲語を使っているため、誤りだそうです。
ただ、客に向かって『ご来店くださり、ありがとうございます』と言っても、『ご来店いただき、ありがとうございます』と言っても、正しい敬語です。そこから、『ご来店いただいたかた』という誤りが生まれるのではないかと著者は推測し、さらに、相手が主語の『してくださる』ではなく自分が『していただく』という言葉を使うのは、無意識に自分中心になっているのかもしれないという見解を述べています。
この無意識に自分中心になっているという指摘は、わたしにとって納得のいくものでした。相手を敬う気持ちは薄れ、自分がへりくだっていれば無難という流れがあるのかもしれません。
もうひとつは、『です・ます体』では形容詞の扱いが難しいことです。この『難しい』も形容詞ですが、これを『です・ます体』で丁寧にするとき思い浮かぶのは『難しいです』や『難しかったです』などですが、稚拙な感じが否めません。
ではどう書けばいいのでしょうか。正しくは『難しゅうございます』ですが、現代では若い人を中心に違和感を抱かせる表現かもしれません。『難しいのです』と、『の』を入れる手もありますが、ニュアンスが微妙に変わり、素直な気持ちを表現した印象は薄れます。
著者は、別の工夫を提案しています。たとえば、目上の方に久しぶりにお会いしてうれしいと思ったときは、『久しぶりにお会いできてうれしい一日となりました』と表現することができます。
形容詞を『です・ます体』に取り入れる際、ああでもないこうでもないと迷うのは自分だけではないと知ることができたことは収穫でした。