2020年10月26日

「ザリガニの鳴くところ」

20201026「ザリガニの鳴くところ」.png

ディーリア・オーエンズ (Delia Owens) 著
友廣 純 訳
早川書房 出版

 タイトルの「ザリガニの鳴くところ」とは、茂みの奥深く、生き物たちが自然のままで生きてるところです。この本は、まさしくそんな場所のすぐ近くを舞台にした小説です。

 物語は、1969 年、白人の青年チェイスがノースカロライナ州の湿地で遺体で発見されるところから始まります。その直後物語は、カイアという 7 歳の白人少女が湿地で暮らす 1952 年に戻り、そのあと、カイアの暮らしとチェイスの死が交互に語られ、物語が進むについれ、その 2 本の線が交わります。

 物語の最後で、チェイスの死が事故だったのか殺人事件だったのかが明らかにされるので、この作品をミステリ小説と捉えることもできます。

 でもわたしは、高等生物とされる人間に備わっているはずの理性や品格を捨て去り、ほかの生物と何ら変わることなく自分を優先して生きた人々とその後悔、そんな人々に孤独を強いられたカイアの成長などを描いた作品だと受けとめました。

 ある七面鳥の群れが、そのなかの 1 羽の雌を攻撃しているのを見かけた 15 歳のカイアは、むかし兄のジョディから聞いたことを思い出します。
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原因が怪我であれ何であれ、もし見た目がほかの鳥たちと違ってしまったら、捕食者の注意を惹きやすくなるので群れはその鳥を殺そうとすると。ワシを引き寄せてしまえばついでにほかの鳥も襲われてしまうから、そのほうがましなのだと。
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 人間にもそんな遺伝子が脈々と受け継がれていて、その本能に従って生きていると、疎外され続けたカイアは思ったのかもしれません。

 そして、人間社会からはじき出された女性から、すべてを覆いつくしてほしいと頼まれたであろう自然が、それを拒絶したように見えたことも、より一層悲しく感じられました。

 黒人には選挙権もなかったカイアの少女時代、虐げられ続けた黒人たちが、カイアに優しく接した姿が、白人たちの残酷さと対照的で心に沁みました。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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