
萩原 慎一郎 原著
藤石 波矢 著
KADOKAWA 出版
タイトルに「小説」とあるのは、「滑走路」という萩原慎一郎の歌集をもとに映画化された「滑走路」のノベライズという意味です。歌集にあまり馴染みがないので、読み慣れた小説の形式のほうがいいかと思い、手に取りました。
萩原慎一郎という歌人のことを知りませんでしたが、短歌の世界では、32 歳で命を絶った若き歌人として有名だそうです。自死の原因は、精神の不調とされており、原因は長年受けてきたいじめの後遺症と考えられているようです。
「小説 滑走路」では、いじめ、非正規雇用やそれに付随する格差、恋愛などがテーマとしてあげられ、どれもこの歌人に関わりの深いテーマです。
世の中には理不尽なことが溢れています。いじめは、その最たるものかもしれません。そういったことにどう対処するかに正解はないと、わたしは思います。
ただ、世の中は、力を合わせて理不尽に立ち向かうのではなく、少なくとも自分だけは理不尽な目に遭わないようにうまく立ち回るのが賢明という認識で一致しつつあるのではないかと思えました。そして、理不尽な目に遭った人たちに対しては『自己責任』ということばを投げつけているように見えます。
でもこの歌人は、世の流れに逆らい、創作を通じてそういった理不尽な目に遭った人たちに寄り添っていたのかもしれません。「歌集 滑走路」も手にしたくなりました。