
園田 由紀子 著
株式会社PHPエディターズ・グループ 出版
帯には『往復書簡で描くある家族の物語』とも『実話を元に描く感動作』とも書かれています。いまの時代、実話が元になっていて往復書簡というのが、なんとも古風な雰囲気を醸しますが、2007 年から 2008 年にかけてのことなので、そう古い話ではありません。
手紙をやりとりしているのは、夫と死別して老人ホームに入居した女性と、彼女の孫で入学を機に寮暮らしを始めたばかりの女子高生です。タイトルは、孫宛てに書かれた手紙に登場する石川啄木の詩の引用からきています。
不来方 (こずかた) のお城の草に寝ころびて
空に吸われし
十五の心
自らの若かりしころを思い、孫の年齢を思い、思い出した歌なのかもしれません。この祖母と孫の往復書簡が成立したのは、いまの若い世代のことばを説明しつつ祖母に宛てて手紙を書く理沙のやさしさと、孫の世代が知らない過去の話を伝えつつも押しつけがましい書き方を避ける妙子の思いやりがあったからだと思います。
しんみりとする最後でしたが、いまの殺伐とした時代に心が和みました。