
萩原 慎一郎 著
KADOKAWA 出版
「小説 滑走路」のもととなった歌集です。32 歳という若さで自死した歌人の最初の歌集です。短歌を始めたきっかけは、17 歳の秋、ミーハー感覚で参加したサイン会で俵万智氏の短歌に出会ったことだそうです。
俵氏の影響を受けただけあって、短歌は口語です。わたし自身が 32 歳だったころと比べると、現代に生きる若い世代の人たちは大変なんだと溜息が出ました。
- 毎日の雑務の果てに思うのは「もっと勉強すればよかった」
- 逃げるわけにもいかなくて平日の午後六時までここにいるのだ
- 頭を下げて頭を下げて牛丼を食べて頭を下げて暮れゆく
非正規で就業していた歌人の後悔や諦念を感じずにはいられません。でも、彼は孤独だったようには思われません。
- ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる
- 一人ではないのだ そんな気がしたら大丈夫だよ 弁当を食む
- 疲れていると手紙に書いてみたけれどぼくは死なずに生きる予定だ
そして大切な人もいたようです。
- 遠くからみてもあなたとわかるのはあなたがあなたしかいないから
たった三十一文字に 3 度も『あなた』と呼ぶその方と、前を向いて歩いていく気持ちも、まだまだあったはずです。
- 内部にて光り始めて (ここからだ) 恋も短歌も人生だって
この「滑走路」という歌集を出版しようと計画した彼は、こんな素敵な歌を生み出しました。
- きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい
この歌集が、歌人が用意した滑走路から高く飛び立つことができればいいと思います。