2021年04月11日
「The WITCHES」
ロアルド・ダール (Roald Dahl) 著
Penguin 出版
映画「魔女がいっぱい」(2020 年公開、主演はアン・ハサウェイ) の原作です。ノルウェー移民の両親のもと、英ウェールズで生まれたロアルド・ダールの生い立ちを思わせる作品です。
物語の主人公は 7 歳の男の子です。両親とともにノルウェーに住む祖母を訪ねる途中で交通事故に遭って両親を失い、祖母とふたり英ケントに暮らすことになりました。両親を亡くなって最初の夏休み、肺炎を患った祖母の療養を兼ねて、ふたりは南海岸のホテルで過ごします。
そのホテルで男の子は、魔女に遭遇します。正確には、Grand High Witch と彼女が率いる 80 人を超す魔女たちが会合を開いているところを垣間見てしまいます。普段は人間の女に扮している魔女たちは、ありのままの姿で会合を開き、Grand High Witch の指揮のもと、英国中から子供を排除するために子供たちをネズミに変えてしまおうと企てていました。
なんとも恐ろしい計画なのですが、不思議なことに読んでいるととても楽しい気分になれる話です。少なくともわたしは、「Charlie and the Chocolate Factory」よりも、気に入りました。
薔薇色のハッピーエンドを迎える話でもないのに、これほど楽しめた理由は、みっつあると思います。ひとつは、主人公の男の子がどんな状況に陥っても、たとえネズミの姿になってしまったとしても、祖母が男の子を絶対的に愛していること、またそのことを男の子が微塵も疑っていないことから得られる安心感です。
ふたつめは、この物語で展開される架空の世界が、わたしたちのありがちな想像と作家の空想がいい塩梅で混じりあって成り立っている点です。
たとえば、子供をネズミに変えてしまう魔法の薬の調合が語られるのですが、読んでもわからない材料が次々と登場します。a gruntle's egg、the claw of a crabcruncher、the beak of a blabbersnitch、the snout of a grobblesquirt、the tongue of a catspringer などです。
鉤鼻の魔女がぐつぐつ煮えたぎる鍋に由来の知れない材料を放り込んでいるイメージにぴったりと合う場面ですが、どの材料も、ロアルド・ダールによる造語です。なかには、なんとなくイメージできる単語もあります。crabcruncher は、crab (カニ) と crunch (バリバリと砕く) と -er に分解できそうです。いっぽう、gruntle というのは、どんな生き物か不明ですが、登場人物が gruntle の巣は高いところにあるから、その卵を手に入れるのが大変といえば、それが当然の事実のように受け止められます。
みっつめは、男の子も祖母も、辛い現実から目を逸らすことなく向き合いながらも、良い面にも目を向け、前向きに進んでいくところです。続編がありそうなエンディングは、続きは読者ひとりひとりに書いてほしいという作家からのメッセージかもしれません。
この記事へのコメント
コメントを書く