2022年01月01日

「金融デジタライゼーションのすべて」

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株式会社日本総合研究所先端技術ラボ/Ridgelinez株式会社 Financial Services 編/著
きんざい 出版

 書籍名に騙されてしまったように感じました。金融業界のデジタル化については、ほんの一部で、ほとんどは IT 業界全般の話でした。それも、IT 業界の情報をそれなりにチェックしていれば、目新しい情報は見つけられないレベルです。

 ただ、IT を利用した新しい金融サービスをいくつか知ることができ、新しい気づきを得ることができました。たとえば、@連携範囲の拡大、Aシステム機能提供者の変化、Bローカル事情などがあげられます。

 @では、API などを活用したオープン化により連携可能範囲が広がるにつれ、金融機関が提供できるものも広がっていくと感じました。たとえば、車や住宅の購入支援 (ローン需要の掘り起こし) です。

 米国大手金融機関 Capital One が 2018 年に始めたサービスはその一例です。街なかにある自動車にスマホのカメラでピントを合わせると、その自動車の車種を特定し、価格帯やディーラーでの販売状況、ローンを借りた場合の月々の支払いの額等がスマートフォンの画面に AR 技術を用いて表示されるようになっていて、そこでローンの仮審査を実行することも可能になっています。

 仕組みは、次のようになっています。まず、スマホのカメラでとらえた自動車の車種識別は、iOS 端末では Apple の機械学習フレームワーク『CoreML』、Android 端末では Google の機械学習ソフトウェアライブラリ『Tensorflow』を用いて開発された機械学習モデルで実行されます。次に、識別された車種をもとに、Capital One が独自開発したアルゴリズムにより、全国 12,000 以上のディーラーから収集した 300 万台以上の自動車販売状況のデータベースから、自動車の価格や融資条件が算出されます。最後に、AR での情報出力には、iOS 端末では Apple の SDK「ARKit」、Android 端末では Google の SDK「AR Core」が使われています。

 同様に、オーストラリアの Commonwealth Bank of Australia は、住宅にスマートフォンカメラをかざすことで価格や住宅ローン情報を表示する住宅ローン版アプリを提供しています。

 Aでは、金融サービスに関係するシステムを提供するのは、IT ベンダーに限らなくなってきていると思いました。たとえば、セブン銀行は、自らが開発した金融システムをその差別化を武器に外部に有償提供し、収益源の多角化を図っているとのことでした。

 Bでは、自然言語や法規制などがあげられます。Bank of America は、自行モバイルアプリに音声によって情報入力、指示可能な独自の AI アシスタント『Erica』を実装し、顧客からの情報照会や顧客へのアドバイスに活用しています。顧客のフランクな口語での問いかけに柔軟に回答できる高度な分析力を提供したことから、リリースされておよそ 1 年で、モバイルアプリユーザーの 25% が AI アシスタントを利用しているそうです。こういった自然言語に関係する部分は、やはり当該言語に長けた開発者の存在が必要で、海外のプロダクトを活用するといったことは難しい気がしました。

 また、日本でいう金融商品取引法/資金決済法や犯罪収益移転防止法などの法規制は、国や地域によって違いがあり、金融サービスが法律と密接に関係していることから、やはり海外のプロダクトを簡単に使えない面がある気がしました。
posted by 作楽 at 19:00| Comment(0) | 和書(経済・金融・会計) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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