
サラ・ピンバラ (Sarah Pinborough) 著
佐々木 紀子 訳
扶桑社 出版
『かつて』と『その後』と『現在』の 3 つの時点が最初に描かれ、その後、『かつて』と『現在』を行き来しながら物語は展開し、最後の最後に『その後』がなんの場面だったのかが理解できるようになっています。おもな登場人物は 3 人で、デヴィッドとアデルのマーティン夫妻とシングルマザーのルイーズ・バーンズリーです。このうち、物語の声となるのはアデルとルイーズで、最後の最後にアデルが何者なのかを明かす第 3 の声が登場します。
夫婦は円満とは言い難く、精神科医のデヴィッドは、自らの秘書ルイーズと不倫していて、そのいっぽうでルイーズは、アデルと親しい友人関係にあります。メロドラマの様相を呈する状況ですが、読み始めてすぐサスペンスの要素に気づかされます。アデルは、ルイーズを意のままに操って何か良からぬことを画策しているのです。また、デヴィッドは、夫婦の結婚に関する秘密をルイーズに知られまいと必死に隠し、ルイーズは、アデルの思惑に気づくことなく、マーティン夫妻が隠していることが気になって仕方ありません。そんななか、それぞれの過去や関係性が徐々に明かされていきます。
しかし、後半になってから、これはただのサスペンスではなく、超常現象も物語の要素として鍵になるのではないかと思わされます。夜驚症のせいで体調不調に陥っているルイーズに対してアデルは、かつて夜驚症に悩まされていた経験をもとに、克服法を教えます。その結果、ルイーズは、夢を自在にコントロールできると思うに至ります。
夜驚症は、幼児・小児ではそう珍しくはありませんが、おとなにとっては珍しい症状です。それなのに、子供でもないアデルやルイーズが夜驚症を接点として、体験を共有していくことに作者の強い作為が感じられ、なんとなく非科学的な後味の悪い結末を迎えることが読み取れました。
そして結末までいくばくかもない段階になって、超常現象が起こり、それまで辻褄が合わないと感じていたことに合点がいきます。物語の終わりに、アデルが何を画策していたのかが明かされ、予想どおり後味の悪い事実が判明します。
驚く結末ではありましたが、超常現象に対して抵抗があるので、解明される謎は、読者に想像の余地を残しておいてほしかったと感じ、あまり意外性を楽しめませんでした。