
Stephen King 著
Pocket Books 出版
本作品を書いたスティーヴン・キングのようなベストセラー作家 Michael Noonan が主人公で、36 歳という若さで 34 歳の妻 Johanna を亡くすところから物語は始まります。脳の動脈瘤が破裂して薬局の前で亡くなった妻のバッグからは、家庭用妊娠検査薬が見つかります。亡くなる直前に妻が買い求めたようですが、Michael は、妊娠の可能性を聞かされていませんでした。Noonan 夫妻は、子供が欲しいと思っていて、もし女の子なら Kia (season's beginning を意味するアフリカの名前) にしようと考えていたくらいなので、妻の行動は不可解に見えます。
しかし、そこはホラー作家スティーヴン・キングの作品ですから、妻に愛人がいたというメロドラマの展開にはなりません。Michael は、妻の死後、スランプに陥り、まったく書けないまま 4 年ほどの歳月が流れます。そのあいだ、頻繁に気味の悪い夢に見舞われ、書こうとすると発作のような苦しみに襲われるなか、ほんの少しずつですが霊の存在を信じるようになっていきます。
そして、書き溜めておいた作品も底をつき、年 1 冊ペースの新作発表を維持するのが難しくなり、Sara Laughs と呼ばれる、湖のそばに建つ別荘で当分暮らすことにしました。この別荘は、1900 年頃から建つ歴史ある建物で、幽霊の存在が暗示されても、なんとなく受け入れてしまうような描かれ方をしています。
別荘に滞在するようになってまもなく、Michael にとって大きな出来事がふたつ起こります。ひとつは、Kyra という 3 歳の女の子を育てるシングルマザー Mattie と知り合って好意を抱くようになり、その親子を支援したいと思うようになります。Mattie は、亡き夫の父親 Max Devore に娘の親権を奪われそうになっていました。Max は莫大な資産を有する実業家で、Mattie は、安定した職に就く機会に恵まれず、トレーラーで暮らしていたため、不利な状況にありました。もうひとつは、妻が Michael には内緒で別荘に来て、男性と行動を共にしたり、プラスチック製のフクロウを購入したり、Michael の先祖について調べたりしていたことが判明します。
親権の奪い合いといった、地位や金銭がものをいう現実的な闘いが進行するいっぽう、Michael は、心霊現象としか言いあらわせないような不思議な経験を重ねていきながら、妻の不可解な行動の理由を調べていきます。読んでいて、物語が裁判沙汰へと続くのか、ホラーに向かっているのか、ロマンスに発展するのかが見通せず、目が離せなくなりました。そしてついに、タイトルの Bag of Bones へと辿りついたとき、この物語が描いているのは、幽霊といった目に見えない存在そのものではなく、社会問題なのではないかという印象を受けました。
親から子へと社会的な立ち位置や生き様が引き継がれたり、狭いコミュニティでは同調圧力に与しやすくなったりする傾向があるのは、万国共通かもしれないと思いました。また、白人だから、男性だから、社会的地位があるから、財産があるから、そういったことを理由に、自らが偉大だと勘違いした者が他者を踏みにじったとき、その虐げられた者の思いには行き場がないということも、どこの土地でも変わりはないのだと痛感しました。