2022年03月13日

「アイスクライシス」

20220313「アイスクライシス」.png

笹本 稜平 著
徳間書店 出版

 北極点を中心に広がる北極海は、北米大陸とユーラシア大陸に囲まれ、氷盤があるだけで南極のような大陸がありません。冬には容易に飛行機が離発着できる、その分厚い氷がなくなれば、その下に埋蔵されている膨大な化石燃料が手に入りやすくなるだけではなく、北極海航路を簡単に行き来できるようになり、その経済効果は、計りしれません。

 その事実がこの小説の出発点になっています。1 月のある日、ロシアが開発した純粋水爆 (起爆剤として原爆を使わない水素爆弾で、放射性降下物を生成しません) の実験が北極海で実施されるところから物語は、始まります。実験地点では、爆発の影響で急激な海水温上昇が起こり、大地のように見えていた氷盤に亀裂が次々と入って、一気に不安定になります。

 その近くでは、油田探索調査が実施されていました。日本の資源探査会社とそのクライアントである米国の準石油メジャーから成る 7 人の調査チームは、水爆実験について事前に何も知らされておらず、突然探査基地が海に沈むかもしれない状況にさらされます。しかも、極地特有の雪あらしの真っただ中で、飛行機による救助も望めません。

 最初は、調査チームの生還が叶うのか気になって、ページを繰る手が止まらなかったのですが、途中から単調に感じられるようになりました。その理由は、ふたつの単調さにあります。ひとつは、景色の変化が乏しい点です。雪あらしのために視界が悪く、氷盤の状態が悪くなるといっても、そう大きな変化は望めません。そのためか、極端な思想の持ち主がひとり登場人物に入っているのですが、それでも単調さは否めません。もうひとつは、良心のある人とない人がわかりやすく分かれている点です。国益を振りかざして国民を犠牲にする、良心なき政治屋連中と、それに逆らってでも一丸となって民間人を守る軍人たちといった、わかりやすい構図が少し単調に感じられました。

 北極の氷盤がなくなったときの経済効果を巡って、経済大国が芝居を打つといった設定はリアリティもあり、おもしろいと思いますが、小説を終わりまで支えるには少し足りないのかもしれないと感じました。
posted by 作楽 at 19:00| Comment(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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