
宇佐美 まこと/小野 不由美/京極 夏彦/高橋 克彦/都築 道夫/津原 泰水/道尾 秀介 著
朝日新聞出版 出版
ホラーミステリーのアンソロジーです。各作家の作品名は次のとおりです。
宇佐美 まこと……水族
小野 不由美……雨の鈴
京極 夏彦……鬼一口
高橋 克彦……眠らない少女
都築 道夫……三つ目達磨
津原 泰水……カルキノス
道尾 秀介……冬の鬼
そうそうたる顔ぶれのアンソロジーなので、どれもおもしろかったのですが、意外にも「冬の鬼」が、わたしにとってのベストでした。意外というのは、この作家がブレイクした「向日葵の咲かない夏」を読んで苦手意識をもってしまい、それ以降、この作家の作品を手にしていなかったためです。
「冬の鬼」では、超自然的現象は何も起こりません。ひとりの女の日記が 1 月 8 日から 1 日ずつ遡るかたちで続き、1 月 1 日で終わります。ただ、冒頭の 1 月 8 日の日記は、次の 3 行のみで、さっぱりわからないまま読み始めることになります。
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遠くから鬼の跫音 (あしおと) が聞こえる。
私が聞きたくないことを囁いている。
いや、違う。そんなはずはない。
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それに続く数日は、不幸なできごとを経験してもなお、穏やかな日常とささやかな幸福を噛みしめるかのような内容が続きます。ただ、なぜ硝子に新聞紙を貼ったのか、なぜ S は、女に地図を書いてやらなかったのかなど、やや腑に落ちない描写が散見されます。そしてそれら伏線がすべて回収される 1 月 1 日の日記を読んだとき、1 月 8 日に書かれた『聞きたくないこと』が何なのか、次から次へと想像が膨らみました。
作中では、鬼が何を囁いたのか書かれていません。それでも、女が聞きたくないことをあれこれ想像した自分のなかから囁き声が聞こえ、その非情な声に自分が少し怖くなりました。