
乙一 著
KADOKAWA 出版
以下が収められた短篇集です。「フィルム」というのは、8mm フィルムのことで、これからの時代、こういったものをテーマとする作品は少なくなるのだと思います。ただ、以前読んだ「さみしさの周波数」に収められている「フィルムの中の少女」といい、この「フィルム」といい、フィルムから連想されるアナログな雰囲気と非科学的といわれる現象は、なんとなくぴったりとくるので、こういった作品も残ってほしいと思います。
- そしてクマになる
- なごみ探偵おそ松さん・リターンズ
- 家政婦
- フィルム
- 悠川さんは写りたい
わたしにとって乙一作品といえば、「SEVEN ROOMS」です。どれだけ時が経っても、読んだときの怖さが忘れられません。2006 年に読んだにもかかわらず、その強烈な恐怖感だけは今も残っています。
いっぽう、この短篇集は、どこかユーモラスな雰囲気を醸す作品が多く、これまでわたしが抱いていた印象を覆すのに充分で、作家のふり幅の広さが感じられました。ただ、なかには、くすっと笑える要素がありながら、同時に恐怖も残す作品もありました。
「悠川さんは写りたい」には、可笑しみと怨念が違和感なく混ざりあっています。心霊写真をつくるという変わった趣味の持ち主の烏丸さんと、すでに亡くなっている悠川さんのやりとりが、ある意味滑稽でありつつ、お互いにうまく補っているような印象を受けます。そして、最後の最後に、悠川さんの復讐が一抹の恐怖を残します。それまでの和やかさとのギャップに驚かされて読み終えることができました。