2022年11月17日
「メタバース進化論」
バーチャル美少女ねむ 著
技術評論社 出版
学ぶことが多いだけでなく、わたしの好みに合った本でした。好ましく思った理由は複数あります。まず、新しい技術の分野では、用語の認識を合わせるのが難しいのですが、この本では、著者の視点で『メタバース』が最初に定義されている点が良かったと思います。次に、データをもとに現状を分析しようとしている点、さらには、実体験をもとにしている点なども好感がもてました。
著者は、次の 7 つを満たしたものを『メタバース』と定義しています。
@ 空間性:三次元の空間の広がりのある世界
A 自己同一性:自分のアイデンティティを投影した唯一無二の自由なアバターの姿で存在できる世界
B 大規模同時接続性:大量のユーザーがリアルタイムに同じ場所に集まることのできる世界
C 創造性:プラットフォームによりコンテンツが提供されるだけでなく、ユーザー自身が自由にコンテンツを持ち込んだり創造できる世界
D 経済性:ユーザー同士でコンテンツ・サービス・お金を交換でき、現実と同じように経済活動をして暮らしていける世界
E アクセス性:スマートフォン・PC・AR/VR など、目的に応じて最適なアクセス手段を選ぶことができ、物理現実と仮想現実が垣根なくつながる世界
F 没入性:アクセス手段の 1 つとして AR/VR などの没入手段が用意されており、まるで実際にその世界にいるかのような没入感のある充実した体験ができる世界
この定義から、さまざまな問題を解決せずに今後メタバースが発展していくことは難しいと理解できます。たとえば、大規模同時接続性や没入性は、技術の発展や量産展開などがなければ、現実的ではないかもしれません。また、経済性は、法整備をクリアしないといけないように思います。
また、著者が分析しているデータは、2021 年に著者とスイスの人類学者リュドミラ・ブレディキナ氏が全世界のソーシャル VR ユーザーを対象に大規模なアンケート調査を実施して得た回答 1200 件がもとになっています。標本数も多く、とても説得力のある内容でした。
著者自身の体験をもとにした意見のうち、一番印象に残ったのは、次の記述です。『物理現実の世界では、基本的に生まれたままの肉体の姿で生きていくことしかできませんでした。私たちの人生は、その姿の美醜や性別、属性により大きく左右されてきました。これからは、それらは旧時代の強いたやむを得ない理不尽であったと認識されるようになるでしょう。』
わたしは、世の中とは理不尽なものと思って生きてきたので、天地がひっくり返るほどの衝撃を受けました。なりたい自分を創造して生きる場がメタバースだと定義する著者の思うとおりの空間としてメタバースが発展していくのを応援したくなりました。
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