
白石 一文 著
KADOKAWA 出版
タイトルにあるように、松雪先生が鳥のように空を飛ぶので、ファンタジー要素が入っています。同時に、ミステリーの謎を解くような感覚も味わうことができる作品です。物語は、各章異なる人物の視点で、それぞれ異なる時代背景のなか、群像劇のように主人公不在のまま進みますが、登場人物がお互いに関係していることに気づけば、大きな絵を空間的にも時間的にも小出しに見せられていることがわかるようになっています。
最終的には、松雪先生が運営していた私塾『高麗 (こま) 塾』の最終講話 (1950 年 4 月 21 日) から現在 (2022 年) までに起こったできごとが、最終講話を受けた人々とその関係者を中心に明らかにされます。松雪先生の最終講話は、どんな内容だったのか、また、そのあとなぜ松雪先生は、生徒たちの前から姿を消したのか、そういった謎を追って読み進めましたが、結末には落胆させられました。自分が良いと考えることは誰にとっても良いことであるという考えを押しつけ、それが実現すれば、まるで夢の世界が到来したかのように考える登場人物が、少し気味が悪く感じられたのです。
徐々に全体像が見えてくるプロセスを楽しみながら読めましたが、目の前の霧が晴れたと思ったときに見えた結末は、子ども向けのおとぎ話のようで、わたしの好みではありませんでした。