
近藤 康太郎 著
CCC メディアハウス 出版
わたしは、常々『わかりやすい文章』を書きたいと思っています。ソフトウェアユーザーに使い方を伝えたり、同僚と情報を共有したりする際、ストレスを与えることなく意図したことが伝わる文章を目指しています。
そんな目標を遥かに超える文章、人をいい心持ちにしたり、落ち着かせたり、世の中を住みいいものにしたり、そういったことのできる、風通しのいい文章や徳のある文章を書くためにはどうするかを 25 の視点から説明しているのがこの本です。
『うまい文章』ではなく、読み手を中心に据えた、読者の心を揺らす『いい文章』 を書くということは、途轍もなく難しいことです。著者は、『表現者に、ワーク・ライフ・バランスなどあるわけがない。「ワーク・イズ・ライフ」だ』と書いています。書くことが頭から離れない状態を維持しなければ、『いい文章』は書けないのでしょう。
この本の 14 番目の項によれば、作家の場合、自分にしか書けない『企画』を常に考えています。それは、自分が得意なことを書けといっているわけではありません。読みたいと思っている読者が大勢いるところを探し、読者の半歩先を書くのです。読者が今いるところでも読者の一歩先でもなく、半歩先を見極めるのです。
『半歩』は、わかるようでわからない距離です。こんな指南が 25 も連なっているのですから、本気で書きたいと思っている方には最良の書だと思います。しかし、本を読み終えたあとの自分の文章が少しわかりやすくなっていることを期待していたわたしが学べたことは、書くことの厳しさでした。
その厳しさを知りながら、著者が『いい』と認める文章をわたしが今から目指すことは現実的ではありません。ただ、著者の文章をもっと読んでみたいと思いました。著者は、『文章を書くとは、品格のある人間になること』だと書いています。そう考えている人が何を書くのか知りたいのです。