
原田 ひ香 著
ポプラ社 出版
故人となった作家の蔵書を譲り受けて管理する私設図書館が舞台です。夜間のみ開館していること、1000 円の入館料を徴収していること、館内のカフェでは、本に出てくるメニューが提供されていること、従業員はインターネット経由で個別にリクルーティングされていることなど、風変わりな点が目立つ図書館ですが、本好きにとっては心惹かれる場所です。
連作短編となっている本作では、それぞれの短編にカフェのメニューにちなんだタイトルがつけられています。短編ごとにメインの語り手が代わり、どのように図書館にかかわるようになったのかなどが明かされます。
風変わりな図書館で起こる、さまざまな小さな事件にしても、図書館にかかわるひとたちの過去にしても、理解しがたい点がいくつかあり、全体的にリアリティに欠けているという印象を受けました。そのいっぽうで、図書館や書店での日常業務は、妙にリアリティがあり、空想と現実を行ったり来たりしているような気分を味わいました。とりわけ、私設図書館を運営するための資金の出所や従業員の採用基準などは白昼夢のようでした。
私設図書館の設定以外にも、随所に散りばめられた、実在の書籍に関する話題が、本好きには楽しいものの、本のなかの世界全体としては統一感に欠ける気がしました。