
宇佐 和通 著
笠間書院 出版
この本を読めば、この数十年のあいだに都市伝説がどう変遷したかを振り返ることができます。そもそも『都市伝説』は、英語の『urban folklore』や『urban legend』の訳語として登場しましたが、この本では『友達の友達という、比較的近い関係にあると思われる人間が体験したという奇妙な出来事に関する起承転結が見事に流れる話』と定義されています。
しかし、インターネットの普及で、友だちの友だちには、インターネット上の知り合いも含まれるようになり、さまざまな変化が起こりました。たとえば、日本の都市伝説が米国にも広がり、あたかも米国で起こったことのように派生バージョンが存在するケースもあるそうです。次の『ピアスの穴の白い糸』がその例です。
とある女子大生が、友達にピアスの穴を開けてもらうことにした。安全ピンをライターで熱して消毒してから、それを耳たぶに刺す。ピンが刺さったまましばらく放置して、そっと抜くと、傷口から白い糸のようなものがぶら下がっているのが見えた。糸くずみたいだ。友達は、それを指先でそっとつまんだ。
すぐ取れると思ったのだが、思っていたよりずっと長い。仕方ないので少し力を入れて引っ張ってみたが、切れない。そのまま引っ張っていると、抵抗がなくなってスルスル出てくるようになった。
そのまま引っ張り続けていると、再び抵抗を感じた。力を入れても動かない。そこで、指に何重かに巻き付けて思い切り引っ張ったら、どこかで「ブチッ!」という小さな音がした。
次の瞬間、耳に穴を開けてもらっているほうの女の子がこう言った。「ねー、ちょっと待ってよ。何も見えないよ。電気消すなら先に言ってよ」
スイッチは部屋を入ったすぐのところにあるので、二人とも届かない。もちろん停電でもない。実は、耳たぶからぶら下がっていた白い糸のようなものは視神経で、それを全部引っ張り出してしまったため、目が見えなくなってしまったのだ。
都市伝説を文字として読むのは初めてですが、たしかに起承転結がしっかりしています。また著者は、米国バージョンを紹介するとともに、加えられた編集の理由を考察しています。
こんな都市伝説が 50 篇紹介されています。嘘だと思うけど本当だったらどうしよう、そうこどもたちをどきどきさせた都市伝説ばかりではなく、大がかりなしかけのデマを企画して展開する手法を得意とする広告代理店をしている社会学者が映画のマーケティング戦略として始めたものがネットロアとして拡散された事例もあります。さらには、事件を引き起こしたオンライン陰謀論やなりすましアカウントによる『お金配り詐欺』など、笑ってすますことのできないものもあり、長閑な時代から現代まで都市伝説の歴史が感じられる内容でした。