2024年07月12日

「ハッキング思考 強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか」

20240712「ハッキング思考」.png

ブルース・シュナイアー (Bruce Schneier) 著
高橋 聡 訳
日経日経BPBP 出版

 この本で取りあげられているハッキングは、不正アクセスなどのコンピューターシステムの話に限りません。著者は、ハックを次のように定義しています。

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1. 想定を超えた巧妙なやり方でシステムを利用して (a) システムの規則や規範の裏をかき、(b) そのシステムの影響を受ける他者に犠牲を強いること。
2. システムで許容されているが、その設計者は意図も予期もしていなかったこと。
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 この定義をもとに考えると、税法に抜け穴があって、それを巧妙に利用して節税すれば、ハックに該当することになります。つまり、抜け穴を見つけたひとだけが、税金を少なく納めることができ、ほかの納税者により多く負担させているというのが著者の定義です。

 そして、常に富裕層が有利だと著者は強調しています。税法の抜け穴を見つけられる専門家を雇ったり、抜け穴が塞がれないよう政治家に働きかけたりするには、資金力が必要だからです。

 一般的な社会人にとって、こういったケースは、見知ったものです。ただ、この本を読めば、こういった現実をもう少し掘り下げて考えられます。わたしの場合、知っていながら、正しく認識していなかった例として、Too Big To Fail (TBTF: 大きすぎて潰せない) があります。

 大企業が破綻したときの社会的影響は大きいために潰せず、政府が救済するのが一般的になっています。これに対し著者は、一部の強大な企業は、『リスクの高いビジネス上の判断を下すとき、政府を事実上の保険代わりに利用し、国民にばかり負担を押し付けている』と書いています。たとえば、日本語でリーマンショックと呼ばれた金融危機も東日本大震災の原子力発電所問題も該当しそうです。そう考えると、ハックは、ありとあらゆる場面で見られることに気づきます。

 そして、著者は、ひとつのハックが死を迎えるまでのプロセスをそれぞれの差異を含めていくつか紹介し、これからわたしたちがどうハックを無くしていくべきか提示しています。

 現在、AI が急速に発展し、普及しています。著者は、ハッキングに AI が利用されるようになったとき、それを防ぐことができるのもまた AI だと説いています。しかし、そのためには『AI による故意あるいは過失のハッキングから受けそうな影響から社会を守る』ための迅速で包括的で透明で俊敏な統括構造 (ガバナンス) が必要であり、それを市民が集団として決定すべきだと著者はいいます。

 わたしたち市民がハッキング思考を身につけ、民主主義のもと、ガバナンスシステムを構築できるのであれば、理想的だと思います。ただ、AI に『透明性』ひとつを求めるのにも苦労するいま、その考えは、わたしには夢物語に見えました。そのいっぽうで、そう考えるから、わたしはこれまで著者が定義するハックの『犠牲を強いられる他者』側に立ってきたのだとも思います。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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