2024年11月02日

「地面師たち」

20241102「地面師たち」.png

新庄 耕 著
集英社 出版

 解説によると、2017 年に東京・五反田の廃旅館『海喜館 (うみきかん)』の土地を積水ハウスが購入したあとに詐欺と判明した事件が本作のモチーフだそうです。わたしは、当該事件の被害額が 55 億 5 千万円と知って、普通ならありえないと思ったことを覚えています。本作では、モチーフとなった事件の倍近い被害額で描かれていますが、それでも真に迫った何かを感じました。そして、当時の事件を知ったわたしが『やるべきことを普通にやっていれば、起こりえない』と思ったのは、自身が追いこまれていなかったからに過ぎないと気がつきました。

 本作では、騙す側と騙される側に偶然が重なって、被害額 100 億円を超す詐欺が成功をおさめます。加えて、事件を追う側にも偶然が起こり、最後にはすべてが明らかになります。騙す側には、つらい経験があって、普通の生活から外れてしまった、いわゆる優秀なひとたちが、プロの詐欺師たちに加わっています。相容れないひとたちが思いがけず手を組むことによって、最強のチームができあがりました。騙される側は、追いこまれ、起死回生を切望し、うまい話の裏を疑う余裕を失っています。そして、詐欺師を追う側にも、定年を前にして多少の自由時間と悔いを残したくないという思いをもった刑事が存在します。

 これだけの偶然が重なると、嘘っぽくなってもおかしくないのですが、騙す側のひとたちを襲った不幸な事故や事件も珍しいことでもなく、騙される側の大手企業の役員が背負ったノルマも珍しいことでもなく、警察官が定年前に多少の感傷に浸ることも珍しいことではなく、架空の世界に浸ってしまいます。しかも、それらの事情が明かされる展開が円滑で、最後まで一気に読んでしまいました。

 さらに解説もおもしろく、厳しいビジネスの現実を知ることができました。本作をベースに映像作品をつくりたいと思った解説者大根仁氏は、映画やテレビドラマにすることはできないと知らされたそうです。映画会社は、グループ内に不動産部門をもっていますし、テレビは、大手スポンサーやビジネスパートナーに不動産部門があり、この手の作品を自粛するしかないそうです。なるほど、それで Netflix 配信作品になったのか……と納得できました。
posted by 作楽 at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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