
オリバー・バークマン (Oliver Burkeman) 著
高橋 璃子 訳
かんき出版 出版
虚を衝かれた気がしました。著者は、産業革命以降わたしたちは、『「今」という時間を未来のゴールにたどり着くための手段に変えて』しまった結果、今を楽しむのではなく、未来の安心を手に入れるために今の時間を費やし、可能な限り多くのタスクを詰めこんで、時間をコントロールしようと躍起になっているといいます。そして、『今を犠牲にしつづけると、僕たちは大事なものを失って』しまい、『時間を支配しようとする者は、結局は時間に支配されてしまう』というわけです。
言われてみれば、そのとおりだと思いました。同時に、時間を支配したいという欲求のために、わたしたちはどんどん短気になっていることにも気づかされました。著者は、『現代人がどんどん短気になっているのは、技術が進歩するたびに、人間の限界を超える地点に近づいている気がする』ことを理由にあげています。『たとえば電子レンジで 1 分で夕食を温められるようになると、今度はその 1 分が長く感じられ、1 秒で温まるべきではないかと思うようになる』わけです。
わたしたちは、未来に不安はつきものであり、時間を支配しようとしても支配されるだけだという事実を受けいれ、忍耐を身につける必要があるようです。1 分かかるものには、1 分かける必要があるわけです。著者は、学者たちの執筆習慣を研究している心理学者ロバート・ボイスの研究を引用しています。『もっとも生産的で成功している人たちは、1 日のうち執筆に割く時間が「少ない」』ことがわかっているそうです。『ほんの少しの量を、毎日続けていた』からです。成果を焦らず、適切なペース配分を守って継続する価値があることを証明する調査結果です。
さらに著者は、忍耐を身につけるコツを 3 つ紹介しています。1. 「問題がある」状態を楽しむ、2. 小さな行動を着実に繰り返す、3. オリジナルは模倣から生まれる。1. は、人生とはもともと、ひとつひとつの問題に取りくんで、それぞれに必要な時間をかけるプロセスなのだから、問題がない状態を目指す必要はないということです。2. は、先の執筆の例にあるとおり、少しずつでも繰り返せば、着実に成果はあがるのだから、続けることこそ大切だということです。3. は、結果を急ぎ過ぎれば、模倣の段階を過ぎて独自の成果を出すところまで辿りつけないということです。
わたしも、何を焦っているかを忘れて、ただ焦っていたような気がします。もっと、もっとと先を急ぐのではなく、自らの器を知り、自分なりに成長しつつ、プロセスを楽しみながら、過ごせるようになりたいと思わせてもらえた気がします。