
中野 信子 著
アスコム 出版
さみしさに限らず、感情には個人差があります。わたしは、さみしさを感じることが比較的少ないと自分では思っていますが、新型コロナウィルスが流行した折りは、さみしさ、不安、心細さといった負の感情を意識せざるを得ませんでした。それ以降、『感情』というものを理解したいと思うようになりました。
この本で目指しているのは、さみしさが生じる仕組みを理解して上手にさみしさと付き合い、人生をより豊かに過ごせるようになることです。確かに、さみしく感じたからといって、その感情に浸っているばかりでは、よい方向に進めません。
著者によれば、さみしさは、人間が生き延びるための仕組みだそうです。現代は、成人すればひとりでも生き延びられる環境にあると言えますが、人類の歴史において、それはつい最近実現した状況です。それまでは単独よりも集団でいるほうが生存の可能性が極めて高く、共同体や組織などの社会的集団をつくることで人類は生き延びてきました。そのため、危険や危機を予測する防御反応として、さみしいという感情が生じるのではないかというのです。
そのほか、さみしいという感情の特徴として、痛みなどとは違って個人差が非常に大きいと説明されています。つまり、第三者のさみしさを想像するのは難しく、本人にしか、そのさみしさをうまく扱えないようです。また、1 歳半までの時期に、スキンシップを多くとるなど『愛情ホルモン』であるオキシトシンの分泌が多くなれば、愛着関係を築けますが、その逆だと、誰かがそばにいることを好まないようになります。さらに、孤独が寿命に与える影響力は、タバコやお酒による害や、太り過ぎ、運動不足という生活習慣に起因する害よりも大きいという研究結果もあるそうです。
こういった、さみしさの特徴を理解し、さみしくなるのはひととして健全な反応だと捉え、それでもいい人生を生きていけるように考えることを著者は勧めています。さみしさを克服しようとせず、さみしいときは話を聞いてくれるひとに騙されやすくなっていることなどを頭の片隅で警戒しつつ、自分が本当に必要としているのは、どんなつながりかを認識することが大切だというのです。
さみしいという感情に振り回されず、適度な距離感でひととのつながりを築きつつ、機嫌よく日々を過ごす参考になる本だと思います。