2025年06月20日

「お人好しでもいい」

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パーネル・ホール (Parnell Hall) 著
田中 一江 訳
早川書房 出版

 疲れたときに読みたいとわたしが思う、スタンリー・ヘイスティングズシリーズの第 3 弾です。今回は、ニュー・ジャージー州のアトランティック・シティが舞台です。殺人事件に巻きこまれた (自ら飛び込んだ ?) ときに知り合ったマコーリフ部長刑事に『個人的に』頼まれて、彼の娘夫婦をさぐることになったスタンリー。マコーリフは、報酬を払うと申し出たのですが、探偵として一人前か自信がないという理由で報酬を辞退し、無償でアトランティック・シティまで行ったスタンリーは、それだけでもう、タイトルにある『お人好し』の条件を満たしている気がします。

 ただ、スタンリーが愚かだから、マコーリフの頼みをきいたわけではありません。「なにかと隠しごとをされても信用する。おれより頭がきれると思って、だまって姿を消したり勝手な行動をしても信用する。きみはやたらめったらドジを踏んで、しかも自分じゃそれに気づきもしない。それでも、おれはきみを信用する」。そうマコーリフに言われ、自身もマコーリフを信用しているから、ひと肌脱いだわけです。このあたりの機微がパーネル・ホール作品を好ましく感じる理由で、ありえない展開にも惹かれてしまいます。完璧とは程遠くとも、信用に値するスタンリー・ヘイスティングの人物像こそ、このシリーズを読みたくなる理由かもしれません。

 テレビドラマに登場する探偵のようなセリフを警察相手に吐いてみたり、証拠写真を盗みとったり、ちょっとした探偵気分を味わったスタンリーは最後に、お互いにパートナーを裏切ってきた、マコーリフの娘夫婦が元の鞘に収まるよう、しどろもどろで嘘をつきます。読んでいるほうが恥ずかしくなるような、ありえない話をでっちあげるのです。ここまでお人好しが過ぎれば、好きなだけお人好しを続けてくれといいたくなる結末です。本を開いたときから閉じるときまで、世知辛い現実を離れ、いまや絶滅危惧種となったお人好しを堪能できました。
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