2025年06月21日

「絞殺魔に会いたい」

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パーネル・ホール (Parnell Hall) 著
田中 一江 訳
早川書房 出版

 スタンリー・ヘイスティングズシリーズ第 4 弾です。第 2 弾に続き、第 3 弾でも、お人好し全開のスタンリーを目の当たりにしましたが、第 4 弾では、彼の嫉妬心を垣間見ることができます。依頼人のもとを訪れて、死体の第一発見者となったスタンリーは、警察から疑われ、犯人に仕立てあげられるのではないかと気を揉みます。同僚が担当するはずだった案件を引き受け、そこで死体を発見しただけでも、運が悪かったと思うのに充分ですが、その同僚が役者の卵で、オーディション絡みで仕事を休み、案件が自身に回ってきたとなれば、俳優への道を歩む同僚を羨ましく思っても、不思議ではありません。輝かしい未来のある若者と、生活のために時給いくらで働く自身を比べてしまう気持ちは痛いほどわかります。ただ、その気持ちを自ら認めて向き合うところにスタンリーらしさが滲みでていて、親近感を覚えます。

 さらに同じ失敗を繰り返してしまうところにも、親近感を覚えます。自分のことを容疑者扱いする捜査員クラークを無能だと思うスタンリーは想像します。『こんどの殺人事件を解決できたら、どんな気持ちだろう。すべての事件をひとまとめに解決して警察署へ乗りこみ、愕然とするクラークの目のまえに殺人犯をつきだし、こういってやれたら。「ほらよ、薄のろくん。こいつが真犯人だ」正直な話、夢を見ているようにうきうきしてきた。』

 本作よりも前の作品で、マコーリフ部長刑事を相手に、一歩先んじているつもりでもそうではなかったという経験をしているはずなのに、こんなことを思ってしまうスタンリーは、なんとも人間味に溢れています。そして今回も、一歩先んじていたのは警察だったという結末ですが、それでもスタンリーは、自らが納得する結論にたどり着きます。

 完璧とも、ハードボイルドとも程遠いスタンリーは、お人好しで要領が悪いものの、努力を厭わず、ものごとを明らかにしていきます。こうしたスタンリーの人物像が、わたしがこのシリーズを好ましく思う理由のひとつです。そして、次はどんなトラブルに巻きこまれ、どんな窮地に陥り、どう切り抜けるのか気になり、呆れながらもスタンリーを応援してしまうのです。
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