Agatha Christie 著
Pocket Books 出版
長年にわたって読み継がれてきた作品には、やはり魅力があります。すでに読んだことがあって、犯人を言い当てるという、フーダニット最大の楽しみがなくとも再読してしまうくらい、わたしはこの作品が好きです。
なにしろ、意外性がてんこ盛りです。殺人事件の犯人を見つけるといえば、犯人はひとりだと考えがちです。遺体発見時から、犯人がふたりではないかと仄めかされているものの、複数犯などという一般的な結末ではなく、被疑者たちからひとりだけ除外するという想像もしなかった展開には、いまでも斬新さを感じます。
さらに想像しなかったのは、ハッピーエンドと受けとることもできる選択肢が殺人事件に用意されていることです。(探偵がすべての謎を解明し、犯人に罪を償わせるという流れになっていません。命をもって罪を償わさせられた結果、探偵が登場することになります。) 名の通った探偵、被害者が乗っていた列車の鉄道会社役員、検視を担当した医師がそろって出した結論が人間味に溢れています。緻密なトリックだけでなく、心の機微も丁寧に描かれています。
また、登場人物の個性が見事に伝わってきて、人間観察を存分に楽しめます。特に、Mrs. Hubbard がふた言目には、「娘が」「娘が」という母親で、こういうタイプの女性はどこにでもいるのだと思っていたら、結末では豹変して驚かされます。
ミステリーとしては短めなのに、これだけの要素が盛りこまれ、少ない量の食事で満腹になったときのような読後感があります。

