山本 昭宏 編
ミネルヴァ書房 出版
1899 (明治 32 年) 年に大阪の靭公園あたりで開業された鳥井商店が始まりのサントリーは、船場の老舗といってもいい存在です。そのサントリーの文化財団が助成した、『戦後日本における「河内的なもの」と「船場的なもの」に関するメディア文化研究』の成果物がこの本です。
船場と河内・釜ヶ崎、それぞれの土地がマスメディアでどう扱われ、どんな印象をひとびとに与えてきたか、小説、映画、アニメなどを例に取りあげながら、既発表のエッセイや論文などにも触れ、解説されています。
『大阪のイメージは、明治期以降に、新聞・書籍・映画・レコードを通して徐々に広まり、やがて戦後のマスメディア (主にテレビ) が明治期以降のイメージを編み直して定着させた』と本書に書かれてあるとおり、大阪のイメージには、ほかの土地に比べてマスメディアなどに植えつけられた印象が多分に含まれている気がします。
そう思って本書を読むと、たとえば、「細雪」に描かれる船場は、はるか昔に存在した世界で、その実情を正確に覚えているひとは、もういないでしょうし、歴史の一部になっていることに気づかされます。ただ、船場を描いた作品が思った以上に存在したことを本書で知り、失われた、あるいは失われつつある文化、風習、価値観だからこそ、小説というかたちで残したいと思った作家たちがいたのではないかと思いました。同時に、ほかと差別化できるなにかが存在したから、創作欲に駆り立てられたのかもしれません。
大阪のイメージとして、わたしの印象に残っている作品は、この本でとりあげられている「じゃりン子チエ」です。1981 年にアニメ映画化され、同年テレビアニメ化もされている本作品では、わが娘が店を切り盛りしているにもかかわらず、自身は働きもせず、言いたいことを言っているテツ (チエの父親) が意外にも周囲から受け入れられていて、大阪とは、こんな会話や状況が成立する土地柄なのだと思った記憶があります。
このなかで触れられた作品個々に対する考察は興味深く、多くの先行研究があることもわかって認識を新たにできましたが、全体像の分析としてのインパクトには欠けた気がしました。

