井上 真偽 著
幻冬舎 出版
災害現場が舞台となっている本作では、災害救助に役立つドローンが重要な役割を果たします。「アリアドネシリーズ」と名づけられたドローンには、さまざまな機能が備わっていて、音響分析機能が「アリアドネの声」と呼ばれています。かすかな呻き声なども分析できるようになっていて、要救助者の発見に役立ちます。
「アリアドネ」の由来は、次のように説明されています。『神話の英雄・テセウスは、かの有名な怪物「ミノタウロス」を退治する際、彼を慕うクレタ島の王ミノスの娘・アリアドネから渡された糸玉を使って、怪物の棲む迷宮を脱出する。その逸話から生まれたのが「アリアドネの糸」という言葉で、何か困難な状況に陥った際、解決の道しるべとなるものを意味する』。それが、本のタイトルになっているわけです。
本作の要救助者は、『見えない・聞こえない・話せない』という三重障害を抱える女性です。そのため、より一層「アリアドネの声」が救助の鍵を握っているように見えます。
ドローンには、比較的新しいテクノロジーが集約されているため、それだけでも近未来的なイメージを抱くのにじゅうぶんですが、本作では、「地下都市」が登場します。また、インターネット上で災害関連情報が飛び交い、真偽も確かめられないまま、さまざまな憶測を呼ぶ状況がリアルに描かれ、いかにも 21 世紀の災害現場といった様相を呈しています。
そのいっぽうで、わたしたち人間は、テクノロジーほどは進化せずにいることが浮き彫りになっています。ひとは、誰もが同じだけ頑張れるわけではないと悩んだり、相手が嘘をついているかもしれないと疑ったり、自らの名前を明かさずに済むインターネット上で、喜んで誹謗中傷に加担したりします。
それでも、思いもしない結末が待ち受けていて、読後感が爽快でした。自分を追いこんでいた主人公が解き放たれるさま、意外な事実が詐称の噂を一掃するさま、過去のわだかまりが消えていくさまなど、いろいろなことが収まるべきところに収まったように綺麗に結着します。ひとが強いのは、それはそれで素晴らしいこと、でも、強くなくとも、それはそれで素晴らしいこと、そう読み終えたあとに感じました。

