2007年12月13日

「笑う警官」

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佐々木 譲 著
角川春樹事務所 出版

 最近、企業の不正に関する内部告発が多いように思うのは、私だけではないようで、あるテレビ番組で内部告発について取り上げられていました。番組は、内部告発者をどうとらえるか、内部告発者をどう保護していくか、法律面の整備状況はどうか、など広く浅く意見が集められていました。

 私が意外に感じたのは、街頭でインタビューされたと思われる(内部告発に関わりのない)一般の人の意見の一部です。もちろん、内部告発に対して肯定的な意見もあったのですが、会社に対する不満を内部告発というかたちでぶちまけているだけではないかという意見もあり、驚きました。短い回答の中から、そう発言した人の意図を正確に把握することはできませんが、たとえ不正をはたらいた組織であっても、その組織への裏切りは認められないと考えている印象を受けました。

 でも、内部告発者が支払う代償というのも、一個人として考えるとあまりにも大きいように思います。その番組で取り上げられていた、ある内部告発者の場合、告発後、年に数度も転居を伴う転勤を命じられたり、昇進がまったく止まったりと会社からの仕打ちに辛い思いをしたと語っていました。最近では、企業の存続が危うくなり、従業員解雇に発展することも考えると、生活の糧を失ってまで告発する思い切りは、単なる不満の吐露ではないように思えます。

 嘘をつきとおして組織の不正を隠蔽するか、大きな代償を支払ってでも正直に不正を認めて組織の浄化を期待するか、個人の価値観によって大きく左右される問題だと思います。

 この「笑う警官」は、警察の裏金を隠蔽する側と暴露する側の攻防が描かれています。舞台は北海道。北海道議員の委員会で、警察裏金について証言を求められている警察官に、体よく作り上げられた罪がきせられ、警察による射殺命令がくだされます。証人として召喚された警察官が真実を話せないように、口封じしようとしていることに気付いた有志が真犯人を見つけ出し、射殺命令を撤回させるべく、職務外で動き出します。

 不正を隠蔽している組織の中にも、それではいけないと思っている人たちがいることに拍手喝采したい気分で読み始めますが、ことはそう簡単に進みません。証人が召喚されるまでの時間が限られていること、組織ぐるみで真犯人を隠していること、などの難題を抱えながら、時間は容赦なく過ぎていきます。そして、その有志の中にも警察の不正を漏らすことに憤りを感じる者がいて、スパイとして動いているため、情報が筒抜けになってしまいます。インタビューに答えていた人のように、たとえ本当のことであっても、外部に組織の恥部をさらず者をよく思わないのでしょう。

 時間は迫る、スパイは誰かわからない。どきどきとする展開を楽しめます。でも、少し物足りない気がしないわけでもありません。小説の中よりも、現実の警察のほうがもっと腐敗しているのではないかと思うと、架空の世界のほうが相対的にこじんまりとしている印象を受けてしまいます。

 あと、こまかいことですが、タイトルもいまひとつだと思います。元々、「うたう警官」というタイトルだったのが、文庫になる際、「笑う警官」になったそうです。警官がうたうとは、内部の情報を漏らすことを指すそうです。ぴったりのタイトルだったのを、本を売る側の計算で変えられてしまったのは、残念な気がします。
posted by 作楽 at 08:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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