![20071218[Ryugu].jpg](https://witch-sara.up.seesaa.net/image/200712185BRyugu5D-thumbnail2.jpg)
川上 弘美 著
文藝春秋 出版
私が好きなタイプの本ではありませんでした。では、嫌いかと訊かれるとそうでもありません。不思議ですが、無関心というものでもありません。気にはなるけど、のめり込むように読んでしまう感覚がないといった感じでしょうか。強烈な印象を受けながらも、好きではないという不思議な本でした。
他の読者がどういう感想を持たれるのか、とても気になるタイプの本です。
幻想譚ばかりの短編集です。時代が現代というところが、幻想とのイメージがミスマッチです。
収められているのが、次の8編
−北斎(ほくさい)
−龍宮(りゅうぐう)
−狐塚(きつねづか)
−荒神(こうじん)
−鼹鼠(うごろもち)
−轟(とどろ)
−島崎(しまざき)
−海馬(かいば)
どの話にも、人間ではない生き物が登場するのですが、私が一番気になったのが、鼹鼠(うごろもち)。どういった外観のものなのか、よくわからないのですが、人間のように普通に会社に行き、親戚とメールをやりとりするのです。その会社での様子は次のように描写されています。
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会社に入りたてのころは、石をなげつけられたり腐ったものをぶつけられたりしたこともあったが、何年かするうちに、同僚たちも先輩社員たちも私に慣れたらしい。
近年入社してくる若い人間たちなどは、私の姿が自分たちとずいぶん違うことにも気がつかないようだ。異形のもののことを、あえて忖度(そんたく)しない、というよりも、気に留めようともしない、らしい。「かなり、毛深いんですね」といわれたことくらいはあるが、あからさまに凝視されたり、出自を問い詰められたり、ということもなくなった。
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メールを使うことから、時代は間違いなく現代で、場所は東京。しかも、この得体の知れない「うごろもち」は、時々人間を拾ってきて、その人間が死ねば地下100メートル以上もある穴に捨てるのです。「うごろもち」が拾ってくる人間は「アレ」と表現されています。
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「今日、ビルの外にアレがいたよ」と、清掃の人間たちが、ときどき教えてくれる。
アレ、というのは、私が拾う類の人間のことである。
「今日のアレ、ちょっと危ない感じ」
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どんな類の人間だというのでしょう。私はその中に入るのでしょうか。気になる話ではあります。