2008年01月29日

「クローズド・ノート」

20080129[ClosedNote].jpg

雫井 脩介 著
角川書店 出版

 結末はどうなるんだろう。そう思いながらいつも小説を読んでいます。だから、結末がわかっていると、読み進める気持ちが削がれてしまうのが普通です。ただ、今回は例外でした。結末は見えているのに、その過程が楽しみで、どんどん読み進められることができました。

 最近なんとなく自覚できるようになってきたのですが、私は、小説においてイベントより人物が気になるようです。つまり、予想もつかない意外な展開より、魅力的な人物。今回の場合、伊吹や香恵が女性から見ても魅力的で共感できる人物だったことが大きいように思います。

 香恵は、主人公の大学生。サークルに入っていたり、アルバイトをしていたり、友だちとはしゃいだりする普通の大学2年生。大学の近くでにひとり暮らししているのですが、その部屋には、前の住人が忘れていったと思われるノートがありました。人のものだし、中身を読むわけにも、まして捨てるわけにもいかず、置かれていた場所にそのまま置いている香恵。ある日、気になって中身を読み始めます。

 読み進めていくと、小学校教師の伊吹が、日々のことを綴っていたノートだとわかります。その内容に共感し、発見をし、ぐいぐいひっぱられていく香恵。そこに彼女自身の大学生活、友情、恋愛などが交わっていきます。

 ほとんどが日常的なことばかりなのですが、香恵の視点がとても細やかで共感できるのです。たとえば、彼女のアルバイト。わりと大きめの文房具店でアルバイトしているのですが、万年筆のフェアをきっかけにそのコーナーを手伝うよう言われます。大学の入学祝いに万年筆を父親からプレゼントされて以来、万年筆が好きな香恵は、嬉しさが隠せません。しかし、簡単には万年筆は売れません。一方、いつも万年筆コーナーを担当している文房具店の娘である可奈子は、どんどん売り上げていきます。自分と可奈子の違いは何なのか、真剣にひとつひとつ考えていく香恵を見ていると微笑ましくなってきます。

 また、香恵の恋愛に対する姿勢もすごく共感できます。迷ったりもするのですが、自分の気持ちをたしかめたら最後、それを貫くあたり、打算がないだけに新鮮に映ります。

 世代が違うのですが、なんとなくそれを超えて共感できる価値観が香恵にはあります。そして、その香恵が共感する伊吹は伊吹で、香恵とは違った魅力があります。仕事では初めて学級担任を受け持ったり、恋愛では学生時代に想っていた相手と再会したりと、日々のなかで感動にであったり、迷路に迷ったり。そしてそのひとつひとつに向き合う姿勢がまた共感できるのです。

 なんとなく、最近はあまり使わないことば「すがすがしい」がぴったりに似合うような香恵と伊吹でした。
posted by 作楽 at 00:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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