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ジェイソン・グッドウィン 著
和爾桃子 訳
早川書房 出版
アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀長篇賞受賞、ということだったので、ミステリとしてかなり期待して読み始めました。でも、ミステリとしては、全然私好みではなかったです。
1836年のイスタンブールが舞台。主人公は白人の宦官であるヤシム。そのヤシムは、物語の幕開けで2件の殺人事件の調査を依頼されます。
まず、最初がオスマン帝国陸軍の近衛新軍イスタンブール司令官からの依頼。新軍の士官4名が行方不明になり、そのうちのひとりが殺害され発見された。なんと、大鍋の中に入れられて、厩に運び込まれていた。残り3名の行方もわからず、犯人の見当もつかず。
もう1件は、トプカプ宮殿の奥の院「至福の館」(ハレム)で絞殺された女性。王であるスルタンの夜伽をつとめるその夜になって殺され、こちらも犯人の見当がつかない上、ハレムに出入りできる男性は限られ、ヤシムが指名された。
ヤシムが探偵役をつとめるミステリ、と思って読み始めたのですが、ヤシムは一向に女性殺しの犯人に考えを向けず、話しにも登場せず、「いったいどうなったのかなぁ」と気になって気になって仕方がありませんでした。そして、とうとうその話しが登場するのは、もう物語の最後のほう。なんとなく、すっきりしません。
そして、士官のほうも、次々と死体が見つかっていくのですが、残りひとり、という状況になって、ヤシムは死体が見つかる場所の共通点に近づいていきます。でも、ヤシムはその最後のひとりの場所にいつ死体がくるのかを気にはしても、その共通点から犯人に近づこうとしない点がなんとなくもの足りません。
どちらの犯人探しにおいても、たいした探偵振りを発揮してくれないヤシムにがっかりしたので、ミステリとしてはあまり、いい作品ではない気がします。
それでも、アメリカ探偵作家クラブ賞を受賞したのは、時代考証がすばらしいことと、それをわかりやすく読者に伝えながら、ストーリーの邪魔にもなっていないことが、作家としての力量をあらわしているからではないか、という意見がありました。たしかに、世界史に疎くても、イスタンブールの当時の街並みが想像できるという楽しみはあります。
また、登場人物がみな個性的なので、その点もおもしろいと思います。
そう考えていくと、ミステリとして期待しなければ、かなりいい作品なのかもしれません。イスタンブールという土地を訪れたことはありませんが、いつかは行ってみたいと思うような描写がいくつもありました。
帯には以下のように書かれていました。
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本書の舞台となるイスタンブールは、16世紀には中近東から東欧、北アフリカまで地中海世界の大半を版図に収めていた強大なオスマントルコ帝都の首都である。地理的にアジアの最西端、ヨーロッパの最東端にあたるため、交通の要衝として重視され、それゆえ多くの民族、言語、宗教が共存する国際都市でもあった。本書は帝国も斜陽となった19世紀が舞台だが、当時の華やかな都市生活をいきいきと再現した描写は、最大の読みどころのひとつといえよう。
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古きイスタンブールの街並みへの招待状と受け取れなくもない内容です。その時代、その土地に興味のある方にとっては、すばらしい作品だと思います。